ある夜倉庫のかげで聞いた話
「お月様が出ているね」 「あいつはブリキ製です」 「なに、ブリキ製だって?」 「ええどうせ旦那 ニッケルメッキですよ」(自分が聞いたのはこれだけ) 「一千一秒物語」より これは、私の好きな作家、稲垣足穂さんの「一千一秒物語」の一話です。収録されている70話の中で、一番好きなお話です。 この作品は、足穂さんが十九歳の時、大正八年に書かれたものだそうで、私は、初めてこの作品を読んだ中学生の時、大正時代にこんなに素敵な言葉を紡ぐ人がいた事に、深く感動してしまいました。 この作品の中には、他にも、お月様がけんかをした話、星でパンをこしらえた話、月光密造者などと、天体にちなんだお話が入っています。刊行された当時の文壇では、かなり奇想天外な作品に思われたのではないのでしょうか。 足穂さんの世界を、一つの言葉で言い表すのは、とても難しいことのように思われます。 感応の世界。音の無い世界。 足穂さんがつくりあげた濃密な空間に、一旦足を踏み入れると、何とも心地良く、全てのものが澄み渡ったこの世界から抜け出る事は、不可能とすら思われてしまいます。 足穂さんの世界では、実世界では垣間見る事のできないゆったりとした空気、夜空に紡がれ、人間と接する事のできる天体たちが、時空を隔てて存在しているのです。 一千一秒物語 著者:稲垣足穂 /たむらしげる 出版社:ブッキング たむらしげるさんも、以前から大好きなイラストレーターさんの一人です。 たむらさんの絵は、足穂さんの世界に、本当にしっくりと馴染みます。 この記事を評価する スポンサーサイト
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ふと思った事、感じた事を、きまぐれに綴っていきます。どこか共鳴するところがあってくれるのならばいいなぁと・・・
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・ストレンジ・ワールド 4作の短編映画集です。ロバート・カーライル主演の「置き去られた空間」が印象的です。 ・ぼくの伯父さん ゆったりとした空気が流れる、ジャック・タチの映画です。この映画に使われている曲、たまに無性に聴きたくなります。 ・フェアリー・テイル 3話のオムニバスで、カトリーヌ・ドヌーブ、ミュウミュウも出ているのですが、エマニュエル・ベアールの「赤ずきん」。この作品の映像、エマニュエル・ベアールの可愛らしさが、私にはとても衝撃的でした。
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